地球の陸と海の30%以上を自然環境エリアとして保全する「30by30」の実効性を科学的に評価
生物絶滅による生物多様性の消失を防止するため、2030年までに地球の表面積30%以上を保護区にする国際的取り組みがスタートします。これは、生物多様性条約の目標で「30by30」と呼ばれます。日本でも、小泉進次郎環境大臣が、陸と海の30%以上を自然環境エリアとして保全する「30by30」の基本コンセプトを発表しており、これに関する科学的エビデンスとなった分析結果が、琉球大学理学部・久保田康裕教授と(株)シンクネイチャーの研究チームの論文としてオランダのエルゼビア社から刊行されているマクロ生態学保全学の国際誌「Global Ecology and Conservation」に掲載されました。 |
<発表概要>
背景と研究の視点(実効性のある保護区の設定とは?)
自然保護区の設置は、生物多様性を保全する基本的な方法です。これは、面積ベースの保全手法(area-based conservation measure)と呼ばれ、進化生態学の分野では、長年にわたって、保護区のあり方とその実効性が議論されてきました。地球史上6回目の大量絶滅と言われる近年の生物多様性の消失を食い止めるために、どれくらいの保護区をどこに設置すべきでしょうか?
この問いに関して、保全科学者は地球上の25-75%を保護区にすべきことを主張してきました。一方、むやみに保護区を設置して人間の社会経済活動を制限することも、現実的に困難です。そこで、社会的な実行可能性も考慮し、生物多様性条約の枠組みでは、1992年から2010年にかけて4-17%の保護区、2010年から2020年の愛知目標では陸域の17%と海域の10%を保護区にする目標を掲げ、徐々に保護区面積を拡大してきました。
このような保護区拡大の取り組みにも関わらず、残念ながら、生物多様性の消失には、未だ歯止めがかかっていません。そのため、ポスト2020枠組みでは、2030年までに保護区面積率を30%以上に拡大する目標「30by30」が設定されます。
ここで注意すべき点は、どこでもいいから保護区を設置して目標値の数合わせをすればいい、ということではありません。保護区の質(実効性)が重要なのです。今まで保護区を増やしても、生物多様性消失に歯止めがかからなかったということは、保護区の設置場所やその後の保全措置に問題があり、うまく生物を保全できなかった、ことを意味します。したがって、保護区の実効性を科学的に評価することが、極めて重要です。具体的には、どのようなエリアに保護区を増やすべきなのか、その結果として生物絶滅をどれくらい抑止できるのかを把握した上で、効果的な保護区拡大の計画を推進する必要があります。
日本は島国で地域固有の生物が数多く分布しており、世界的な生物多様性ホットスポットの一つとして知られています。日本固有の生物相をいかにして未来に引き継いでいくのか、つまり、生物多様性の保全計画が試されている国です。
以上のような背景と観点から、琉球大学理学部・久保田康裕教授の研究チームは生物多様性を守るための保護区配置の分析を行い、さらに久保田教授の研究を基に設立されたベンチャーである(株)シンクネイチャー(https://thinknature-japan.com)を通じた研究成果の社会実装を推進しています。
発表論文
【タイトル】Area-based conservation planning in Japan: The importance of OECMs in the post-2020 Global Biodiversity Framework
【著者】Takayuki Shiono, Yasuhiro Kubota, Buntarou Kusumoto
【雑誌】Global Ecology and Conservation
【DOI】doi.org/10.1016/j.gecco.2021.e01783
【URL】https://doi.org/10.1016/j.gecco.2021.e01783
【タイトル】ポスト2020生物多様性枠組の保全計画 ビッグデータを基にした保護地域とOECMの実効性評価
【著者】久保田康裕
【雑誌】國立公園(794), 24-27. 自然公園財団
【URL】https://ci.nii.ac.jp/naid/40022634478/
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