2020年11月9日月曜日

グリーンインフラを活用した 国土形成により‟いのちまち”を創る

先週末はWEB開催されたGIJ2020(グリーンインフラ・ネットワーク・ジャパン全国大会)に参加しました。

グリーンインフラは環境分野の要注目分野・概念であることは認識していましたが、予想以上の発表人数に驚きました。多様な立場から、そして若い人の参加が目立ち、とても熱い活発な議論に刺激を受けました。

内容が濃すぎてすべてはご紹介できませんが、いま国会でもたいへんに話題(というか紛糾している)日本学術会議もグリーンインフラに関する提言を去った8月にしていたとのことで、この日本学術会議による提言を今回は取り上げます。


”いのちまち”というのは初めて聞きました。
いのちまちとは「(略)リスクを最小化する基盤を備え、逞しく回復していく力を有する地域」とのことだそうです。
GI全国大会の多くの発表でも自然のもつ「レジリエンス」を災害対策に活かそうという話が多かったですが、生態系のもつ回復力、復元力というのが注目、そして期待されているのでしょうね。

大手町タワー・大手町の森
【東京都千代田区大手町】

提言「気候変動に伴い激甚化する災害に対しグリーンインフラを活用した国土形成により“いのちまち”を創る」のポイント

1 現状及び問題点

 近年、世界的に水・土砂災害の激甚化が際立つようになり、それを引き起こしている外力の増加は気候変動による可能性が高い。日本においても、2018年6~7月にかけての西日本豪雨、2019年10月の台風19号により、中部・関東・東北地方の各地では、観測史上1位の降水量が記録された。大河川である多摩川は一部で氾濫したが、利根川・荒川では、破堤・浸水などの大災害を免れ、首都機能が危機に陥る危険性は、辛うじて回避された。この理由は、1947年のカスリーン台風、及び1958年の狩野川台風の大被害を受けて、首都圏では70年間に渡り、山間地の貯水池、平地の遊水地・調節池・地下放水路、堤防等の社会資本整備が営々として行われきたことが大きい。
 一方で、我が国は、急速な人口減少社会に突入しているなかで、東京一極集中は依然として進展しており、感染症リスクの拡大、高密市街地における巨大地震等の重大な危機に直面している。持続可能な人間居住の実現のためには、安全・安心でレジリエント(回復力のある)な地域形成は最も基本とすべきものである。しかしながら、人口減少、国家財政等の社会的状況の変化を鑑みるとき、従来のような社会資本整備は、時間的にも資金的にも、また合意形成観点からも、困難な時代に突入していると判断せざるを得ない。
 我が国の国土計画は、1950年に制定された「国土総合開発法」に基づき、「全国総合開発計画」が5次に渡って策定されてきた。「地域間の均衡ある発展」をめざし、「定住圏構想」(1977年・第3次全総)、「多極分散型国土の構築」(1987年・第4次全総)、「国土のグランドデザイン」(1998年・第5次全総)が策定され、2014年には「国土のグランドデザイン2050」が提示され、「コンパクト+ネットワーク」の方針が示された。小さな拠点をコンパクトにつくり、ネットワーク化による国土形成を目標とするが、同時に6,000万人のスーパー・メガリージョンを創り出すとしている。
 この考え方は、以下の本質的問題を内包している。ネットワーク化成立の要件は、拠点の持続性と代替可能性、リスクを最小化する基盤とレジリエンスを内蔵していることにあるが、巨大都市圏の代替は短期に実現することは不可能である。特に、気候変動に伴う巨大災害と感染症の脅威に対して、具体的方法論とインフラ構築の道筋が示されていないことは、国民の命を守る上で重要な問題である。このような現状と問題を踏まえて、日本学術会議環境学委員会都市と自然と環境分科会は、「グリーンインフラを活用した国土形成を行うべきである」との提言を発するものである。
 グリーンインフラとは、「自然環境を生かし、地域固有の歴史・文化、生物多様性を踏まえ、安全・安心でレジリエントなまちの形成と地球環境の持続的維持、人々の命の尊厳を守るために、戦略的計画に基づき構築される社会的共通資本である」。

2 提言の内容

  • (1) グリーンインフラを活用した「いのちまち」を創る
     「いのちまち」とは、「人びとが、美しく豊かな自然環境のなかで、安全・安心な暮らしと経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、災害の脅威や危機に対して、リスクを最小化する基盤を備え、逞しく回復していく力を有する地域」を意味する。
     複合災害(自然災害・感染症)のリスクが高まるなかで、国(国土交通省・環境省・農林水産省)は、様々な自治体と連携し、グリーンインフラを活用して「いのちまち」を創り、持続可能な開発目標・SDGsの達成を目指すべきである。その整備にあたっては、情報基盤の構築、気候変動予測のダウンスケーリング、リモートセンシング技術開発等を行い、技術革新の基盤をつくり、気候変動適応策の形成に向けた具体的手法を開発すべきである。

  • (2) 「首都圏グリーンインフラ戦略計画」を創る
     感染症の拡大が重大な社会的脅威となっている中で、首都直下地震が30年以内に起こる確率は70%程と予測されており、加えて台風・豪雨・高潮が重なる複合災害が生じる可能性を否定することはできない。首都圏の脆弱性は、高密居住、海抜ゼロメートル地帯の高潮被害、都市型水害、森林地帯の土砂・流木災害等全域に及んでいる。首都圏の人口は約4,430万人であり、壊滅的被害を受けることは日本の浮沈にかかわる事態となる。国は自治体と連携し、新しい生活様式の基盤となる「首都圏グリーンインフラ戦略計画」と、これを踏まえた「行動計画」を速やかに策定すべきである。

  • (3) 沿岸低平地に「多重防御グリーンインフラ」を創る
     急激な人口減少に直面している日本の沿岸低平地に、地震・津波・高潮・台風等の巨大災害にレジリエントに対応しうる「多重防御グリーンインフラ」の構築が必要である。これは沿岸域の自然立地を活用し安全・安心な地域形成を目指すものであり、生態系の特質を踏まえた「天然更新を活かした海岸林」を形成していくことが重要である。これに基づき、国、自治体は国土管理の基盤を形成し、国際社会に貢献していくべきである。

     提言全文はこちら(PDF形式:3,056KB)PDF

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